エゴイスト  〜不二side〜




去年の夏を過ぎた辺りから、僕は変になった…

少しの間ボーとなる時があって、そうするとその少し前までの記憶が曖昧になってしまう

これはきっと…手塚に酷い事をしてしまった僕への天罰なのだと思う

だから、僕は受け入れるしかない

記憶が無い自分を…


「あ、英二。おかえり」


屋上から戻ってきた英二を、僕は笑顔で迎える。

正直、僕が安心して二人っきりで居られるのは英二しかいない…。

他の誰かだと、僕が突発的に襲ってしまうんじゃないかと思って怖くなってしまうんだ。

越前は…いない。多分、戻ってくる途中で別れたんだろう。


「ただいまぁ〜、俺が居なくて寂しかった?」

「何言ってるのさ」


僕がクスッと笑うと同時に、校内放送の音楽が教室に響いた。


『あー、男子硬式テニス部、聞いてるかい?今日はあたしも手塚も部に顔が出せそうにない』


竜崎先生の声が、耳に届く。英二も自然とスピーカーの方へ視線を向けた。


『よって、今日の練習は無しだ。ただし、自主練は欠かすんじゃないよ!』


ブチッと音声が切れる。…今日は練習なしか。


「へぇ〜、珍しい。ラッキーだにゃ」

「英二は?真っ直ぐ帰るの?」

「う〜ん…。大石と打ってから帰ろっかな。不二はどうすんの?」

「借りてた本を図書室に返したら帰ろうかな」


レポートの資料にするのに、4冊ほど図書室の本を借りている。

まだ返却期限に余裕はあるけど…折角だし、今日返しに行こう。


「そっか。…ん?今日…?今日って、何かあったよーな気がする…」

「え?何?」

「何だったかにゃー…思い出せそうなんだけど、思い出せない…」


英二は暫く唸っていたが、どうしても思い出せないようで…その不快そうな表情はずっと消える事がなかった。










「…あぁ、英二が言いたかったのはこの事かな?」


放課後、図書室を訪れた僕は納得した。…カウンター席ですやすやと眠っている越前を見て。

きっと英二が言いたかったのはこの事だろう。今日は越前が図書委員の日って事を。


「よく眠ってるなぁ…。委員の仕事、放棄してるのかな…」


図書室内には、他に誰もいない。僕と越前だけだというのに、僕は何故かカウンターに近寄った。

誰か他の人間と二人っきりになるのを避けていたっていうのに…。越前が眠っているからか?


「越前く…っ!」


越前を起こそうと近寄り、肩を揺すろうと伸ばした手が動きを止めた。

…頭が、ボーとする…


「…あれ?僕、図書室で何してたんだっけ…」


不意に目が覚めたような感覚が走った。…何故ここに居るかはよく分からない。

けど、目の前で眠っている越前を見た瞬間に、僕の中の欲望が騒ぎ出した。


「クスクス…やっぱり無防備だね、越前…」


越前に近寄ると、机にうつ伏せている身体を起こさせて抱きしめた。

驚いたように、目を見開く越前。…可愛い反応だな。


「え…しゅ、不二…先輩!何で…?!」

「あぁ、そう言えばさっきは拒否しちゃってごめんね?何でだか、そうしなきゃって思っちゃってさ」

「…もしかして…」


越前は何かを呟いたけど、僕の耳には届かなかった。

困惑気な越前の顎を上に向け、唇を合わせる。緊張が伝わってくる唇は、硬く閉ざされていた。


「…もっと、力抜いてよ。じゃないと意地悪するよ?」

「…!…」

「慣らさないで突っ込んだら、ここ…痛いだろーね…」


耳元で囁きながら、越前の穴の周りを指でなぞる。それだけで越前の口からは甘い吐息が聞こえた。

ほんと、滅茶苦茶にしてやりたい。僕のモノにして…壊れるまで抱き続けてやりたい…。


「せ…んぱい…っ、人、来ちゃうよ…」

「来ないよ。君、入り口の札を間違えてかけたでしょ?『CLOSE』になってたよ」

「!!!」

「これじゃあ、誰も助けに来てくれないね?」

「そ、んな…!」


シャツの中に腕を忍び込ませ、その突起を強く抓みあげた。越前の表情が、苦痛に変わる。


「いたっ…!」

「痛かった?ごめんね。じゃあ治さないとね…」


学ランのボタンを外し、シャツを脱がせた。上半身に何も纏っていない越前の胸を舐め上げる。

強く吸ったり、突起を舌で転がしたり…。

越前とSEXするのは初めてのはずなのに、何故か彼の『気持ち良い場所』が手を取るように分かった。


「はぁ…ん、やぁ…せ、んぱい…!」

「嫌?そのわりには、抵抗らしい抵抗しないよね。僕に抱かれたかったの?」

「ちが…」

「そんな顔で言われても説得力ないよ」


嘲笑うように舌を這わせながら、越前の立ち上がったモノを指でピンッと弾いた。

ビクッと動くと、越前は息を乱しながら顔を真っ赤にした。

…不思議に思って、ズボンを脱がす。成る程、イッちゃったわけか。


「あーあ、汚しちゃって…。どうするの?今日はパンツなしで帰る?」

「………」

「こんな簡単にイッちゃうなんて…そんなに僕が欲しい?それとも相手なら誰でもいい淫乱なのかな」


越前は、顔を真っ赤にしたまま涙を流していた。心なしか、首を横に振って否定しているように見える。

…どっちに対する否定なのかな。僕?それとも淫乱?まぁ、どっちでもいいけど。


「ねぇ、何で泣いてるの?イッちゃったのがそんなに恥かしかった?」

「…先輩が、意地悪ばっかり言うから…」

「今更でしょ、そんなの。別に僕は君を監禁して犯してもいいし、今このまま突っ込んじゃっても構わないんだけど」

「や…」

「なら、素直に抱かれなよ。君の事は壊してみたいけど、今は溜まってるのを出したいし」

「……痛く、しないッスか…?」

「………」


怯えきった越前の目に興奮して、返事をする事も忘れてキスをした。

咄嗟の事に逃げようとする舌を捕まえ、絡め、強めに吸い上げる。


「んん…あ…せん、ぱい…」

「ふふ、さっき君が出したから、グショグショだよ」


自分自身の精液に濡れた越前のモノを掴み、上下に扱いた。力が強い所為か、越前は辛そうに喘ぐ。

…その表情。僕だけのものにしたい。ずっと側に置いて、僕にだけ喘がせたい。


「はぁ…先輩…」

「ん…?何?」

「…俺の事、どう思って…んすか…」


喘ぎながら、そう聞いた越前。そういえば、何で僕は越前を壊したいんだろう?

…最初見た時から興味はあったけど…


「俺、のこと…好き…?」


何かを期待するかのような、越前の表情。いいね、その顔。

その顔がショックで打ちのめされたら、見応えありそうだ。


「前にも言ったよね。別に君を愛してるわけじゃないって」

「…っ」

「そんなに悲しそうな顔しないでよ。何を期待してたって言うの?」


顔を伏せて涙を流している越前に、畳み掛けるように挿入した。

越前は伏せていた顔を上げ、苦痛の表情で僕を睨んでくる。


「痛っ…や、めて…!おれ、今のアンタとこんな…こと、したくない…!」

「今更拒否したって、遅いよ。僕を煽ったのは君なんだから…」


きつい…。やっぱり女の子じゃないし、全部は無理かな?まぁ、無理にでもやらせてもらうけど。


「やぁぁぁぁ!!!痛いぃ・…!!」

「…っく…」


激しく動こうとすると、その分キツク締め付けられる。それだけでイけそうなぐらい、強く。

まるで食い千切ろうとでもしているような越前を、僕は意地で貫いた。


「や、あぁぁぁ!お願い…抜いてぇぇ…」

「もう少しで、よくなるよ」


喚く越前の口を唇で塞ぎ、腰を掴んで徐々に奥へと突き刺していく。

…この感じ、やっぱり。


「君ってやっぱり男とするの初めてなんだ?」

「…え…!?ち、ちがう…」

「……ふうん、そう」


越前の中の感じと反応から、僕が初めてだと思ったのに。

…僕より先に手を出した男がいるんだ。面白くない。なんだかよく分からないけど、腹が立つ。


「…僕より先に、君のここに触れた男って誰?」

「?!」


急に動きを止めた僕に、越前は身体の熱を発散させる術を失って困惑気だった。

僕は越前のモノを握ると、キュッと力を込めた。


「ねぇ、教えてよ。誰なの?名前を言ってみて」

「っ…いた…ねぇ、つらいよ…」

「言わないと出させてあげないよ。ほら、出したかったら早く言いなよ」


越前は困ったように顔を伏せたが、やがて決心したようにキッと僕を睨み付けた。

…身体中がゾクゾクする。そうだ、僕は越前のこの表情が好きなんだ。


「…フジ…シュウスケ…」

「…え?僕と同じ名前…?」

「それしか言えないッス…」


ただの同姓同名だろう。なのに、僕は頭を殴られたような衝撃を受けた。

何でだろう…。僕が『僕』より先に越前に手を出すわけなんてないのに…。


「…不二先輩?」

「……ふふ、あはは!変な事言うよね、越前って。それで誤魔化せると思ったの?」

「ちがっ…本当に、シュウスケなんだよ…」

「はいはい。嘘を吐く君にはおしおきが必要みたいだね」


僕の中でどす黒い感情が芽生えると、表情に出たのか、越前がビクッと身体を震わせた。

まだ繋がったままの部分を無理に押し込もうとした瞬間…僕は動きを止めた。


ドンドンドン!!


『不二!おチビ!!中にいるんでしょ!?』


不意に図書室の扉を荒々しく叩く音が響き、英二の必死な声が届いた。


「英二、先輩…」

「英二か」


越前が何を思ったのか分からないけど、ふっと笑顔を滲ませた。…またそれに苛立った。

別に越前の事を愛しているわけじゃないのに、その心が僕に向いてないのは不快でしかなかった。


『不二!ここ開けろって!』


「…ちょっと遅い王子様かな?」


僕は越前の耳元で意地悪く囁き、身だしなみを整えると扉の鍵を開けた。

勢い余った英二が、よろけながら図書室内に入ってくる。

その表情は怒りに満ちていて、僕を真っ直ぐに睨んできた。


「やっぱり…!心配になって来てみれば…!!」


裸のまま全てを剥き出しでぐったりしている越前を見て、英二は苦しそうに呟いた。


「いつ、越前が図書委員の当番の日だって気付いたの?」

「…大石と打ってる時、ずっと考えてて。大石に聞いてハッキリ分かった」

「そう。でもちょっとタイミング悪いよ。これからだったのに」


僕が残念そうに言うと、英二は越前の姿を隠すように立ちはだかった。


「もういいでしょ。これ以上おチビ苦しめないでよ」

「…違うでしょ。苦しいのは英二、君自身じゃない。越前は結構気持ち良さそうだったけど」

「…っ…」

「人はいつだって、自分が可愛いんだよ?

自分が傷つきたくないのは解るけど、越前をその言い訳にしないで欲しいね」


僕は脱ぎ捨てていた学ランを羽織ると、英二に悠然と微笑んで見せた。

英二は俯いて何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。


「君は今、盲目的に越前を守ろうとしてるよね?それは何でかな…?

自分の正義感を越前に押し付けて、優越感に浸りたいの?それとも、本物の愛情?」

「俺は…」

【いや、それとも好かれたいがための作戦かな?言っとくけど、君の策なんてのは僕に通用しないからね】


英二の耳元に囁くと、僕は少し気が落ち着いてきたので帰る事にした。

学生鞄を持って、二人を振り返る。


「越前、おしおきはまた今度にしよう。英二、君の感情がエゴでないのを祈るよ」


僕が軽やかに去った図書室内で、あの後二人がどうしたのか…

想像するのが少しだけ、楽しかった。